第15章 青少年赤十字:未来を担う子どもたちの「気づき、考え、実行する」力を育む活動の例
青少年赤十字(Junior Red Cross, JRC)は、100年以上の歴史を持つ世界的な運動であり、日本においても子どもたちの人道的な精神と実践力を育む重要な役割を担っています。その根幹にあるのは、「気づき、考え、実行する」という態度目標です。子どもたちが自らの周りにある課題やニーズに気づき、どうすれば解決できるかを考え、そして実際に行動に移すことを通じて、思いやりや責任感、そして困難に立ち向かう力を養います。
JRCの活動は、特別なイベントやプログラムだけでなく、日々の学校生活の中での地道な実践にも表れます。「健康・安全」「奉仕」「国際理解・親善」という3つの実践目標を柱に、幼稚園から高等学校までの各校種の発達段階に合わせて、多岐にわたるプログラムが展開されています。本稿では、これらの具体的な活動例を、特別な取り組みから日常的な実践まで含めて、実践目標別・校種別に詳しく紹介し、JRCがどのように子どもたちの成長を支え、社会貢献へと繋げているのかを探ります。
1. 健康・安全:自他を守る知識と技術、そして健やかな学校生活
「健康・安全」の目標は、子どもたちが自らの健康を守り、他者の安全にも配慮できる知識や技術、そして態度を身につけることを目指します。これには、身体的な安全だけでなく、心の健康や、規則正しい生活習慣、安全な学校環境づくりも含まれます。年齢が上がるにつれて、より実践的で地域社会と連携した活動へと発展していきます。
【幼稚園】基礎的な生活習慣と安全意識の形成
手洗い・うがいの習慣化指導
交通安全教育
防災教育(導入編)
時間を意識する: 活動の始まりと終わりを意識し、簡単な準備や片付けを自分で行うことで、時間感覚の基礎を養う。
【小学校】基礎的な救急法と防災訓練、規律ある生活態度
救急法講習会
防災訓練
災害図上訓練(DIG)
5分前行動の実践: 授業や活動の開始時刻を意識し、余裕をもって準備する「5分前行動」を奨励・実践することで、時間管理能力と他者への配慮(スムーズな開始への協力)を育む。
いじめ防止の意識啓発: 「ふわふわ言葉・ちくちく言葉」などを通じて、相手を思いやる言葉遣いの大切さを学び、誰もが安心して過ごせるクラス・学校づくりの基礎を学ぶ。
【中学校】実践的な救急法と災害対応力、自律的な生活態度
AED操作と心肺蘇生法(CPR)講習
避難所設営・運営訓練(段ボールベッド組み立て、物資配布シミュレーション)
無言集合、無言清掃
ノーチャイム運動の実践: チャイムに頼らず、時計を見て自ら判断し行動する「ノーチャイム運動」などを通じて、自律性、時間管理能力、そして集団としての規律を高める。これは、災害時など予期せぬ状況下での冷静な判断力にも繋がる。
いじめ撲滅に向けた取り組み: JRC委員会や生徒会が中心となり、いじめ防止キャンペーン(ポスター作成、標語募集、集会での呼びかけなど)を企画・実行する。ピアサポート(仲間同士の支え合い)の考え方を学び、実践する。
【高等学校】地域防災への貢献とリーダーシップ、健全な学校文化の醸成
地域防災訓練への参加・貢献
救急法大会への参加や下級生への指導
防災クロスロードゲーム
「まもるいのち ひろめるぼうさい」プログラム
主体的な学校生活改善: 5分前行動やノーチャイム運動を、単なるルールとしてではなく、学校全体の学習環境や生活の質を高めるための活動として捉え、下級生への指導や啓発を行う。
いじめ・人権問題への深い理解と行動: いじめの問題を人権侵害として捉え、防止のための具体的なアクション(相談窓口の周知、啓発イベントの企画、SNSでのマナー啓発など)を主体的に行う。誰もが尊重され、安全に過ごせる学校文化の醸成にリーダーシップを発揮する。
2. 奉仕:他者への思いやりと地域社会への貢献、そして日々の実践
「奉仕」の目標は、身近な環境美化から地域社会の課題解決まで、他者への思いやりを具体的な行動に移すことを通じて、共感力や社会性を育むことを目指します。これには、日々の挨拶や清掃活動といった、当たり前だけれども大切な行動も含まれます。活動は、子どもたちの自発性や主体性を尊重しながら進められます。
【幼稚園】身近な環境への関心と愛着、簡単な「お手伝い」
園内美化活動
園庭の花壇整備(種まき・水やり)を通じた自然愛護の意識醸成
元気なあいさつ: 先生やお友達に元気よく挨拶をすることで、コミュニケーションの第一歩を学ぶ。
【小学校】地域との繋がりと環境保護意識、積極的な関わり
学校・地域での花壇づくり
福祉施設訪問
清掃ボランティア・リサイクル活動
ポスター作成・作文作成
あいさつ運動: JRC委員会や当番活動として、校門に立って登校してくる児童に元気よく挨拶をする運動などを実施し、明るく気持ちの良い学校の雰囲気づくりに貢献する。
日常的な清掃活動: 教室や廊下、校庭など、自分たちが使う場所をきれいに保つ活動を丁寧に行う。
【中学校】主体的な企画と社会課題へのアプローチ、模範となる行動
福祉施設での継続的なボランティア
地域清掃活動の企画・実施
花いっぱい運動
献血呼びかけ運動
ポスター作成・作文作成
災害援助物資の仕分け等
あいさつ運動の推進: 生徒会やJRC委員会が中心となり、あいさつ運動を企画・推進する。自らが手本となり、学校全体のコミュニケーション活性化を目指す。
いじめを見過ごさない態度: 困っている友人や仲間外れにされている生徒に気づき、声をかけたり、先生に相談したりすることも、勇気ある奉仕(人道的な行動)の一つとして捉える。
【高等学校】専門性の向上と社会貢献活動の深化、リーダーシップの発揮
献血推進活動の展開
地域活性化に貢献する活動
福祉分野での専門的サポート
コロナ禍における医療従事者支援
学校全体の規範意識向上: あいさつ運動や美化活動において、下級生を指導・啓発する役割を担い、学校全体のモラルやマナー向上に貢献する。
人権擁護の視点: いじめ撲滅運動を、単なる校内問題としてではなく、基本的人権を守るための重要な活動と位置づけ、積極的に取り組む。
3. 国際理解・親善:多様な文化を尊重し、世界と繋がる
【幼稚園】異文化への興味・関心の芽生え
【小学校】世界の子どもたちとの交流体験
【中学校】国際的な課題への関心と行動
JRC国際交流プログラムへの参加
SDGs(持続可能な開発目標)啓発活動
国際交流 海外の学校との絵画交換やビデオレター作成
SDGs実践:食品ロス削減プロジェクト(給食の食べ残し調査と改善策立案)
【高等学校】地球規模の課題解決への参画と多文化共生の実践
模擬国連への参加
難民支援・啓発活動
多言語対応ツールの作成
海外への支援プログラム
まとめ:JRC活動がもたらす生涯価値 - 特別な日から日常まで 青少年赤十字の活動は、幼稚園から高校まで、子どもたちの発達段階に応じて「健康・安全」「奉仕」「国際理解・親善」の目標を達成するための、具体的で多様なプログラムを提供しています。これには、防災訓練や国際交流といった特別な取り組みだけでなく、毎日のあいさつ、時間を守る行動、教室の清掃、そしていじめを許さない心といった、日々の学校生活に根差した地道な実践も含まれます。
これらの活動は、単に知識やスキルを学ぶだけでなく、「気づき、考え、実行する」という主体的な態度を育むことを最も重視しています。日常的な規律や思いやりの実践が、いざという時の冷静な判断や、地域社会への貢献、さらには国際的な視野を持つための強固な土台となるのです。
学年が上がるにつれて、活動はより実践的かつ専門的になり、地域社会との連携が深まっていきます。防災教育における地域住民との協働、福祉施設での継続的なボランティア、献血推進活動への主体的な関与、そして国際的な課題への取り組みなどは、高校生が社会の一員として責任ある役割を果たすための貴重な経験となります。
北海道での地域医療支援やラジオでの環境啓発、茨城県での実践的な防災教育とリーダーシップ育成、群馬県での高い組織率と高校生主導の活発な活動など、全国各地で特色ある成功事例が生まれています。これらの活動、とりわけ日々の地道な努力を通じて得られる共感力、責任感、問題解決能力、リーダーシップ、そして多様性を尊重する心は、学校生活だけでなく、その後の人生においてもかけがえのない財産となるでしょう。青少年赤十字は、特別な日から日常まで、子どもたちの健やかな成長と、未来の社会をより良くしていくための人づくりに、これからも貢献し続けます。
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