青少年赤十字(JRC)の活動は、子どもたちの自主性・自律性を育み、社会に貢献できる人材を育成することを目的としています。この目的を達成するためには、指導者が適切な指導方法を理解し、実践することが不可欠です。本章では、JRCの指導者が持つべき視点、具体的な指導方法、国際人道法の学習、そして指導における注意点について詳しく解説します。
JRCの指導の基本は、子どもたちの自主性・自律性を尊重し、育むことです。子どもたちが自ら考え、判断し、行動する力を養うことが、JRC活動の重要な目的の一つです。
JRCの態度目標である「気づき」「考え」「実行する」は、自主的・自律的な人間の形成に深く関わっています。
指導者は、子どもたちが日常生活や社会の中で、様々な問題や課題に「気づく」ことができるように、以下のような働きかけを行います。
ア.問いかけ:
「なぜだろう?」「どうしてこうなるんだろう?」といった問いかけを通して、子どもたちの問題意識を刺激します。
イ.多様な情報提供:
新聞記事、ニュース映像、ドキュメンタリー番組、書籍など、様々な情報源を提供し、子どもたちが社会の出来事に関心を持つように促します。
ウ.体験活動:
地域清掃、高齢者施設訪問、災害ボランティアなど、体験活動を通して、子どもたちが社会の課題を肌で感じる機会を提供します。
エ.対話の促進:
子どもたち同士、あるいは地域の人々との対話を通して、多様な意見や考え方に触れる機会を設けます。
指導者は、子どもたちが「気づき」を深め、多角的に「考え」ることができるように、以下のようなサポートを行います。
ア.情報収集の支援:
問題の原因や背景について調べるために、必要な情報源(書籍、インターネット、専門家など)を紹介します。
イ.思考ツールの活用:
ブレインストーミング、マインドマップ、SWOT分析など、思考を整理し、深めるためのツールを紹介し、活用を促します。
※SWOT分析は、組織やプロジェクトの戦略策定に用いられる手法で、以下の4つの要素から構成されます。
これにより、組織の現状を把握し、戦略的な意思決定を行うための基礎を提供します。
ウ.議論の促進:
賛成・反対の立場に分かれて議論したり、ロールプレイングを行ったりすることで、多角的な視点から問題を捉える力を養います。
エ.批判的思考の育成:
情報の信憑性を評価したり、論理的な矛盾点を見つけたりする力を養うために、質問や反論を促します。
指導者は、子どもたちが「考え」たことを「実行」に移せるように、以下のようなサポートを行います。
ア.計画立案の支援:
目標設定、役割分担、スケジュール作成など、具体的な行動計画を立てるための支援を行います。
イ.関係機関との連携:
地域社会や関係機関との連携をサポートし、子どもたちの活動が円滑に進むように調整します。
ウ.安全管理:
活動の安全性を確保するために、必要な対策を講じ、子どもたちに安全に関する指導を行います。
エ.評価と改善:
活動の成果を評価し、問題点や改善点を明らかにするための支援を行います。
JRCの指導は、道徳教育の基本である人権教育と深く関わっています。さらに、紛争下における人間の尊厳を守るためのルールである国際人道法(IHL)の学習も重要です。
JRCの活動は、赤十字の「人道」の原則に基づいています。この原則は、人間の尊厳を尊重し、すべての人々が平等に扱われるべきであるという考え方を基本としています。指導者は、JRC活動を通して、子どもたちに人権尊重の精神を育むことが求められます。
JRCの活動には、様々な年齢、性別、国籍、文化的背景を持つ子どもたちが参加します。指導者は、多様性を尊重し、すべての子どもたちが安心して活動に参加できるような環境づくりに努める必要があります。
JRCの活動において、いかなる差別も許されません。指導者は、差別的な言動や行為がないか常に注意し、差別をなくすための教育を行う必要があります。
国際人道法(IHL)は、武力紛争の際に、戦闘に参加しない人々(文民、負傷兵、捕虜など)を保護し、戦闘の方法や手段を規制する国際法です。JRC活動では、IHLの基本的な原則やルールを学ぶことで、子どもたちは、紛争下における人間の尊厳の重要性を理解し、人道的な行動をとるための基礎を築くことができます。
ア.人権・IHLに関する学習:
世界人権宣言、子どもの権利条約、ジュネーブ条約など、人権やIHLに関する基本的な知識を学びます。
イ.事例研究:
差別や人権侵害、紛争の事例について学び、その原因や背景、解決策について考えます。
ウ.ロールプレイング:
差別を受ける側、差別をする側、紛争の当事者などの立場を体験することで、問題をより深く理解します。
エ.ディスカッション:
人権やIHLに関するテーマについて議論し、多様な意見や考え方に触れます。
オ.創作活動:
人道や平和をテーマにした詩や作文を書いたり、絵を描いたりする。
JRCの活動の中心となるのは、ボランタリー・サービス(奉仕活動)です。奉仕活動は、子どもたちが社会に貢献する喜びを体験し、問題解決能力を養う上で、非常に有効な手段となります。
JRCの奉仕活動は、子どもたちの自発性を重視します。指導者は、子どもたちが自ら問題を発見し、解決策を考え、実行するプロセスをサポートします。
指導者は、子どもたちが地域社会や学校内で、どのような問題があるのかを発見できるように、以下のような働きかけを行います。
ア.地域調査:
地域を歩き回り、困っている人や改善が必要な場所を探します。
イ.アンケート調査:
地域住民や生徒にアンケートを実施し、ニーズを把握します。
ウ.ニュースや新聞の活用:
地域や社会のニュースに関心を持ち、問題意識を高めます。
エ.ゲストスピーカー:
地域で活動するNPOやボランティア団体の方を招き話を聞く。
指導者は、子どもたちが発見した問題に対して、どのような解決策があるのかを検討できるように、以下のようなサポートを行います。
ア.ブレインストーミング:
自由な発想で、様々な解決策を出し合います。
イ.情報収集:
他の地域の事例や、専門家の意見などを参考にします。
ウ.実現可能性の検討:
それぞれの解決策のメリット・デメリットを比較し、実現可能性を検討します。
指導者は、子どもたちが検討した解決策を実行に移せるように、以下のようなサポートを行います。
ア.計画書の作成:
具体的な活動内容、スケジュール、役割分担などを計画書にまとめます。
イ.関係機関との連携:
地域社会や関係機関との連携をサポートし、活動が円滑に進むように調整します。
ウ.安全管理:
活動の安全性を確保するために、必要な対策を講じ、子どもたちに安全に関する指導を行います。
指導者は、子どもたちの活動の成果を評価し、問題点や改善点を明らかにするための支援を行います。
ア.活動記録の作成:
活動内容、参加者、成果などを記録します。
イ.振り返り:
活動を通して学んだこと、感じたこと、反省点などを話し合い、共有します。
ウ.改善策の検討:
次回の活動に向けて、改善策を検討し、計画に反映させます。
JRCの奉仕活動は、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回すことで、継続的に改善していくことが重要です。
問題を発見し、解決策を検討し、具体的な活動計画を立てます。
計画に基づいて、活動を実行します。
活動の成果を評価し、問題点や改善点を明らかにします。
評価結果を踏まえ、計画や活動内容を改善します。
このPDCAサイクルを繰り返すことで、子どもたちの問題解決能力は、より一層高まっていきます。
JRCの指導においては、子どもたちが先を見通して考え、自分の行動を決定する力を養うことが重要です。
JRCでは、「5分前行動」や「注意深い生活態度」を大切にしています。これらは、先を見通して行動し、自分の行動に責任を持つための基本的な姿勢です。
「5分前行動」は、心の準備をするための数分の余裕が生まれます。時間に余裕を持って行動することで、予期せぬ事態に対応できるようにするための習慣です。指導者は、子どもたちに「5分前行動」の重要性を伝え、実践を促します。
「注意深い生活態度」は、周囲の状況をよく観察し、危険を予測し、回避するための姿勢です。指導者は、子どもたちに、常に周囲に気を配り、安全に行動するように指導します。
JRCでは、子どもたちが他人に指示や命令をされなくても、自ら考え、学び、行動する力を養うことを目指しています。「合図のない生活」「自分の号令者は自分である」という言葉は、この目標を象徴しています。
「合図のない生活」とは、指示や合図がなくても、自分で状況を判断し、適切な行動を取ることができる生活のことです。指導者は、子どもたちが「合図のない生活」を送れるように、以下のような働きかけを行います。
ア.考える機会の提供:
「どうすれば良いと思う?」「なぜそう思うの?」といった問いかけを通して、子どもたちが自分で考える機会を設けます。
イ.選択肢の提示:
複数の選択肢を提示し、子どもたちに自分で選ばせます。
ウ.失敗からの学び:
失敗を恐れずに挑戦させ、失敗から学ぶ機会を提供します。
「自分の号令者は自分である」とは、自分の行動は自分で決定し、自分の行動に責任を持つという意味です。指導者は、子どもたちが「自分の号令者は自分である」という自覚を持てるように、以下のような働きかけを行います。
ア.目標設定の支援:
子どもたちが自分で目標を設定し、その目標に向かって努力するプロセスを支援します。
イ.自己評価の促進:
子どもたちが自分の行動を振り返り、評価する機会を設けます。
ウ.責任感の育成:
自分の行動の結果を受け止め、責任を果たすことの大切さを教えます。
JRCの指導において、指導者は「待ちの姿勢」を大切にする必要があります。「待ちの姿勢」とは、子どもたちが自ら考え、行動するのを辛抱強く見守り、必要な時に適切なサポートを行うことです。
子どもたちが自ら問題や課題に「気づく」ためには、時間が必要です。指導者は、子どもたちが「気づく」のを焦らずに待ち、以下のような働きかけを行います。
直接的な答えを教えるのではなく、ヒントを与え、子どもたちが自分で答えを見つけられるように導きます。
「どうしてそう思うの?」「他に方法はないかな?」といった質問を通して、子どもたちの思考を深めます。
実際に体験させることで、子どもたちの「気づき」を促します。
子どもたちが「考え」を深めるためには、十分な時間と安心できる環境が必要です。指導者は、子どもたちが安心して「考え」を深められるように、以下のような配慮を行います。
子どもたちがじっくりと考える時間を確保します。
子どもたちの意見を否定せず、尊重します。
一つの正解を求めるのではなく、多様な考え方を認めます。
子どもたちが「実行」に移す際には、様々な困難に直面する可能性があります。指導者は、子どもたちが困難を乗り越え、「実行」を成功させられるように、以下のようなサポートを行います。
子どもたちの努力を認め、励まします。
必要に応じて、具体的なアドバイスを行います。
子どもたちと一緒に問題解決に取り組みます。
「気づき」は、知識のように直接的に教えることはできません。「気づき」は、子どもたちが自らの経験を通して主体的に獲得するものです。指導者は、子どもたちが「気づき」を得られるような環境を整え、辛抱強く見守ることが大切です。
気づきは、私たちが自らの経験を通じて得る重要な洞察であり、自己理解を深めるための鍵となります。疑問を持ち、他者と対話し、日常の中での経験を大切にすることで、私たちは新たな気づきを得て、自分自身をより良く理解することができるのです。このプロセスは、個人の成長や発展において不可欠な要素です。
JRCの指導は、子どもたちの生活体験に基づいたものでなければなりません。指導者は、子どもたちの日常生活に関心を持ち、子どもたちの経験を活動に活かすように努めます。
まとめ:JRCの指導者が目指すもの
JRCの指導者は、子どもたちが自主的・自律的に活動し、社会に貢献できる人材へと成長することを支援する役割を担います。指導者は、子どもたちの「気づき」「考え」「実行する」力を育み、人道的価値観を身につけさせるために、適切な指導方法を実践することが求められます。
JRCの指導は、単に知識を伝達するだけでなく、子どもたちの内面的な成長を促す、人間教育です。指導者は、子どもたちの可能性を信じ、辛抱強く見守り、必要な時に適切なサポートを行うことで、子どもたちの成長を支えていきます。