第6章 JRC活動と学校教育:教育目標との整合性と相乗効果

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青少年赤十字(JRC)活動は、学校教育と連携し、相乗効果を生み出すことで、子どもたちの「生きる力」を育む上で大きな可能性を秘めています。本章では、JRC活動と学校教育の目標との整合性を明らかにし、JRC活動が学校教育にもたらす具体的な効果について、多角的に考察します。

第1節 JRC活動と学習指導要領

JRC活動は、文部科学省が定める学習指導要領と密接に関連しています。学習指導要領は、学校教育の目標や内容を定めたものであり、JRC活動は、学習指導要領が掲げる目標の達成に貢献することができます。

6.1.1 共通の目標:学習指導要領とJRC活動

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学習指導要領は、教育基本法に基づき、各学校における教育活動の基準を定めたものです。小学校学習指導要領では、「生きる力」を「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」と定義し、その育成を教育目標の中心に据えています。中学校、高等学校においても、同様の目標が掲げられています。

JRC活動は、この「生きる力」の育成に直結する実践的な教育活動です。JRCの「健康・安全」「奉仕」「国際理解・親善」の3つの実践目標は、学習指導要領の各教科や領域の目標と深く関連しており、JRC活動を教育課程に効果的に組み込むことで、教育目標の達成に大きく貢献することができます。

(1) 「生きる力」の育成

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学習指導要領が目指す「生きる力」は、以下の要素から構成されています。

ア.基礎的・基本的な知識・技能の習得:
各教科の学習を通して、社会生活に必要な知識や技能を習得します。

イ.思考力・判断力・表現力等の育成:
情報を収集・分析し、論理的に考え、自分の考えを表現する力を養います。

ウ.主体的に学習に取り組む態度の育成:
自ら学び、自ら考え、自ら行動する力を養います。

エ.多様な人々と協働する態度の育成:
他者と協力して、目標を達成する力を養います。

オ.自己の生き方を考える力の育成:
自分の将来について考え、主体的に進路を選択する力を養います。

JRC活動は、これらの要素すべてを育成する上で、有効な手段となります。

(2) 各教科・領域との関連

JRCの3つの実践目標は、学習指導要領の各教科や領域の目標と、以下のように関連しています。

ア.健康・安全:
保健体育科、特別活動(学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事)などと関連し、健康・安全に関する知識・技能の習得、危険予測・回避能力、緊急時対応能力の育成に貢献します。

イ.奉仕:
道徳、特別活動、総合的な学習の時間などと関連し、奉仕の精神、社会貢献意識、問題解決能力の育成に貢献します。

ウ.国際理解・親善:
外国語科、社会科、総合的な学習の時間などと関連し、異文化理解力、国際感覚、コミュニケーション能力、協調性の育成に貢献します。

6.1.2 JRC活動を教育課程に位置づける意義

JRC活動を学校教育の教育課程に明確に位置づけることには、以下の意義があります。

(1) 教育目標の達成促進:

JRC活動を教育課程に組み込むことで、学習指導要領が掲げる教育目標の達成を促進することができます。

(2) 教育活動の活性化:

JRC活動は、体験的・実践的な学習活動であるため、学校教育の活性化に貢献します。

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(3) 子どもたちの成長促進:

JRC活動を通して、子どもたちは、知識・技能だけでなく、人間性や社会性を育むことができます。

(4) 学校と地域の連携強化:

JRC活動は、地域社会との連携を促進し、学校と地域の関係を強化します。

(5) 教職員の意識改革:

JRC活動を通して、教職員は、子どもたちの主体性を育む教育の重要性を再認識し、指導方法の改善につなげることができます。

第2節 JRC活動がもたらす教育的効果

JRC活動は、学校教育に様々な教育的効果をもたらします。

6.2.1 主体的な学習の促進

JRCの態度目標である「気づき、考え、実行する」は、問題解決学習のプロセスそのものであり、子どもたちの主体的な学習を促進します。

(1) 問題発見能力の向上

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JRC活動を通して、子どもたちは、日常生活や社会の中に存在する問題や課題に気づく力を養います。

(2) 情報収集・分析能力の向上

問題の原因や背景について調べるために、様々な情報源から情報を収集し、分析する力を養います。

(3) 思考力・判断力の向上

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情報を多角的に分析し、論理的に考え、自分の考えをまとめる力を養います。

(4) 表現力・コミュニケーション能力の向上

自分の考えを他者に分かりやすく伝え、議論する力を養います。

(5) 問題解決能力の向上

問題の解決策を考え、実行し、評価し、改善する力を養います。

6.2.2 体験を通した深い学び

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JRC活動は、座学だけでは得られない、実践的な学びの場を提供します。奉仕活動や国際交流など、具体的な体験を通して、子どもたちは、知識を深め、技能を習得し、態度を形成していきます。

(1) 知識の定着

体験を通して得られた知識は、記憶に残りやすく、理解も深まります。

(2) 技能の習得

実践的な活動を通して、知識を応用する力や、具体的な技能を習得します。

(3) 態度の形成

体験を通して、他者への思いやり、社会貢献の精神、国際感覚などを育みます。

(4) 価値観の形成

多様な人々との交流を通して、価値観の多様性を理解し、自分の価値観を形成します。

6.2.3 社会性とコミュニケーション能力の育成

JRC活動は、グループで活動することが多く、他者と協力して課題に取り組む経験を通して、子どもたちは、コミュニケーション能力、協調性、リーダーシップ、フォロワーシップなど、社会生活を送る上で必要な能力を育みます。

(1) コミュニケーション能力

自分の考えを伝え、他者の意見を聞き、議論する力を養います。

(2) 協調性

他者と協力して、目標を達成する力を養います。

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(3) リーダーシップ

グループをまとめ、目標達成に向けて導く力を養います。

(4) フォロワーシップ

リーダーを支え、協力して活動する力を養います。

(5) 多様性の尊重

多様な背景を持つ人々と協力して活動する中で、多様性を尊重する心を育みます。

6.2.4 道徳性の育成と人格形成

JRCの活動は、道徳教育の目標である「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う」ことに貢献します。人道的価値観に基づいた行動を通して、子どもたちは、思いやり、責任感、正義感、公正さなどを育み、豊かな人間性を涵養します。

(1) 人道的価値観の理解

赤十字の7原則(人道、公平、中立、独立、奉仕、単一、世界性)を学び、理解します。

(2) 他者への思いやり

困っている人や苦しんでいる人に寄り添い、共感する心を育みます。

(3) 責任感

自分の行動に責任を持ち、社会の一員としての役割を果たすことの大切さを学びます。

(4) 正義感

不正や不公平に対して、正しい行動をとろうとする心を育みます。

(5) 公正さ

すべての人々を公平に扱い、差別や偏見を持たない心を育みます。

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6.2.5 キャリア教育との連携

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JRC活動は、将来の職業選択や社会参画を考える上で貴重な経験となります。多様な活動を通して、子どもたちは、自分の興味や適性を見つけるきっかけとなり、働くことの意味や社会貢献の大切さを学ぶことができます。

(1) 自己理解の促進

様々な活動を経験する中で、自分の得意なこと、苦手なこと、興味のあること、関心のあることなどを発見します。

(2) 職業観の形成

様々な職業の人々と接する中で、働くことの意義や、社会における役割について考えます。

(3) 社会貢献意識の醸成

ボランティア活動などを通して、社会に貢献することの喜びや、やりがいを体験します。

(4) 進路選択の支援

JRC活動での経験を、進路選択の参考にすることができます。

6.2.6 持続可能な社会づくりの担い手の育成

JRCの活動は、SDGs(持続可能な開発目標)の理念と深く関連しており、持続可能な社会づくりに貢献する態度や能力を育むことができます。環境問題、貧困問題、人権問題など、地球規模の課題について学び、解決策を考えることを通して、子どもたちは、グローバルシチズンシップを育成します。

(1) SDGsの理解

SDGsの17の目標と、それぞれの目標が目指す社会について学びます。

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(2) 地球規模の課題への関心

環境問題、貧困問題、人権問題など、地球規模の課題に関心を持ち、自分たちにできることを考えます。

(3) 持続可能な社会づくりへの貢献

JRC活動を通して、持続可能な社会づくりに貢献する具体的な行動を実践します。

(4) グローバルシチズンシップの育成

地球市民としての自覚を持ち、国際社会の一員として、積極的に社会に貢献する態度を養います。

まとめ:JRC活動と学校教育の相乗効果
JRC活動は、学校教育と連携し、相乗効果を生み出すことで、子どもたちの「生きる力」を育む上で、大きな可能性を秘めています。JRC活動を教育課程に効果的に位置づけ、学校教育と一体となって推進することで、子どもたちの成長をより一層促進することができます。

JRC活動は、単なる課外活動ではなく、学校教育の重要な一部として捉え、学校全体で取り組むことが重要です。教職員、保護者、地域社会が連携し、子どもたちのJRC活動を支援することで、子どもたちは、より豊かな学びと成長の機会を得ることができます。