現代社会は、グローバル化、情報化、技術革新など、かつてないスピードで変化しており、学校教育もまた、この変化に対応するための変革を迫られています。本章では、現代社会が抱える課題と、それに対応するための学校教育改革の方向性について考察します。
経済のグローバル化は、国境を越えた人、モノ、カネ、情報の流れを加速させ、世界を一つの市場として結びつけました。この結果、企業間の競争は激化し、労働市場も流動化しています。
人の移動の活発化は、多文化共生社会の到来を促しています。異なる文化や価値観を持つ人々が共に生きる社会では、相互理解と尊重が不可欠です。
地球温暖化、貧困、テロ、感染症など、地球規模の課題が深刻化しています。これらの課題は、一国だけでは解決できず、国際的な協力が必要です。
インターネットの普及により、私たちは、かつてないほど大量の情報にアクセスできるようになりました。しかし、その中には、誤った情報や偏った情報も含まれており、情報の真偽を見極める能力が求められています。
情報技術を使いこなせる人と、そうでない人との間に、情報格差が生じています。この格差は、経済格差や社会格差を拡大する可能性があります。
インターネット上での誹謗中傷、プライバシー侵害、著作権侵害など、情報モラルに関する問題が深刻化しています。
AI技術は、急速に進化しており、社会の様々な分野で活用され始めています。AIは、私たちの生活を便利にする一方で、雇用や倫理に関する新たな課題を生み出しています。
ロボット技術の発展は、製造業、医療、介護など、様々な分野で、人間に代わって作業を行うことを可能にしています。
バイオテクノロジーの進歩は、食料生産、医療、環境保全など、様々な分野で、新たな可能性をもたらしています。しかし、同時に、倫理的な問題も提起しています。
これらの社会の変化は、学校教育に以下のような課題を突きつけています。
変化の激しい現代社会では、知識の陳腐化が早いため、単に知識を詰め込むだけの教育では、社会で活躍できる人材を育成することはできません。
従来の学校教育は、教師が一方的に知識を伝達し、生徒は受動的に学習する形式が中心でした。しかし、このような学習方法では、主体性や創造性を育むことはできません。
すべての子どもたちに同じ内容を同じ方法で教える画一的な教育では、子どもたちの個性や才能を伸ばすことはできません。
学校という閉鎖的な空間の中だけで行われる教育では、社会との繋がりが希薄になり、社会の変化に対応できる人材を育成することはできません。
これらの課題に対応するため、学校教育は、以下のような方向へと改革を進めていく必要があります。
文部科学省は、「生きる力」を「変化の激しい社会を生き抜くために必要な、知・徳・体のバランスのとれた力」と定義しています。具体的には、を重視しています。
ア.基礎的・基本的な知識・技能の習得
イ.思考力・判断力・表現力等の育成
ウ.主体的に学習に取り組む態度の育成
エ.多様な人々と協働する態度の育成
オ.自己の生き方を考える力の育成
「生きる力」を育むためには、知識の伝達だけでなく、子どもたちが主体的に学び、考え、行動する機会を増やす必要があります。具体的には、
ア.体験的な学習の重視:実験、観察、調査、討論、発表など、多様な学習方法を取り入れ、子どもたちの主体的な学習を促します。
イ.問題解決学習の推進:
子どもたちが自ら課題を発見し、解決策を考え、実行する学習活動を推進します。
ウ.協働学習の導入:
グループワークやディスカッションなど、子どもたちが協力して学ぶ機会を増やします。
エ.キャリア教育の充実:
職場体験、職業講話、キャリアガイダンスなど、子どもたちが将来の生き方について考える機会を提供します。
「生きる力」を育むためには、基礎的・基本的な知識・技能の習得が不可欠です。基礎学力は、すべての学習の土台となるものであり、思考力、判断力、表現力などを発揮するためにも必要です。
各教科の基礎的な知識・技能を確実に習得させることが重要です。特に、読み書き計算能力は、すべての学習の基礎となるため、重点的に指導する必要があります。
子どもたちの理解度や習熟度には個人差があります。個に応じた指導を行うことで、すべての子どもたちが基礎学力を身につけることができるようにします。
家庭学習の習慣を確立させることが、基礎学力の定着につながります。学校と家庭が連携し、子どもたちの学習習慣の確立を支援する必要があります。
情報化社会、グローバル社会を生き抜くためには、思考力・判断力・表現力が不可欠です。これらの能力は、単に知識を詰め込むだけでは育ちません。
ア.問題解決学習:
子どもたちが自ら課題を発見し、解決策を考え、実行する学習活動を通して、思考力を養います。
イ.探究的な学習:
子どもたちが自ら問いを立て、情報を収集・分析し、結論を導き出す学習活動を通して、思考力を養います。
ウ.批判的思考:
情報を鵜呑みにせず、多角的な視点から分析し、論理的に判断する力を養います。
ア.ディベート:
あるテーマについて、賛成・反対の立場に分かれて議論することで、多角的な視点から物事を考え、判断する力を養います。
イ.シミュレーション:
仮想的な状況を設定し、その中でどのような判断を下すかを考えることで、判断力を養います。
ウ.ケーススタディ:
実際の事例を分析し、その判断の妥当性について検討することで、判断力を養います。
ア.プレゼンテーション:
自分の考えをまとめ、人に分かりやすく伝える力を養います。
イ.ディスカッション:
自分の意見を述べ、他者の意見を聞き、議論する力を養います。
ウ.作文・レポート:
自分の考えを文章で表現する力を養います。
エ.ICTの活用:
プレゼンテーション資料の作成、動画制作、ブログ発信など、ICTを活用して表現力を高めます。
子どもたちが自ら学び、自ら考え、自ら行動する力を養うためには、主体的に学習に取り組む態度を育成することが重要です。
子どもたちの興味・関心を引き出すような、魅力的な教材や学習活動を提供することが重要です。
子どもたちの良い点や成長を認め、褒めることで、自己肯定感を高めます。
小さな成功体験を積み重ねることで、子どもたちは自信を持ち、学習意欲を高めます。
失敗を恐れずに挑戦させ、失敗から学ぶことの大切さを教えます。
言語は、思考力、判断力、表現力の基礎となるものであり、すべての学習活動の基盤となります。学校教育においては、言語活動を充実させることが重要です。
国語科の授業を通して、読む、書く、聞く、話すといった言語能力を総合的に育成します。
国語科だけでなく、すべての教科において、言語活動を重視します。例えば、
ア.社会科:
資料を読み解き、自分の考えをまとめ、発表する。
イ.理科:
実験結果を記録し、考察をまとめ、発表する。
ウ.算数・数学科:
問題文を読み解き、解答を論理的に説明する。
読書は、語彙力、読解力、思考力、想像力などを養う上で、非常に有効です。学校図書館の活用、読書週間